売主側仲介会社が偉いわけじゃない
不動産売買取引の多くは、買主様が来店等で情報提供をお願いしている【買主側(不動産)仲介会社】と、売主様が自分の不動産の売却を依頼している【売主側(不動産)仲介会社】で成り立っています。
契約書類は、売主側仲介会社が作成することが一般的です。
さて、今回のお話しは知人のお兄さんからの一本の電話から始まりました。
『明日、マンション買うんですけど契約に立ち会って頂けませんか?』
明日?
もう19時ですが、なにが?
『不動産会社からの重要事項説明書(重説)と契約書が、なんだか怪しいんです。書類の内容チェックもお願いしたいんです。弟と話していたら、こういう依頼を受けてくれる人がいると聞きまして・・・。』
買主側仲介会社は、先月独立開業したばかりのご友人とのこと。
連絡先を確認し、直接やり取りすることに。
すぐにその書類と、記載内容の正否を照会するための書類をPDFデータで送信を依頼。
重説と契約書のデータは送って頂けました。
その他の資料は?
照合できませんよ?
電話をするとそのご友人(買主側仲介会社)は、
『彼(買主)も知っていることなんですけど、実は私は売買取り引きには不慣れなんです。』
なんて正直なんだろう。
それが最初の印象です。
『売主側仲介は代表取締役が担当していて、その彼が作成しているようです。その彼が高圧的で、何度、資料提供を申し出てもその度に電話先でキレられてしまい話しが進まないんです。さっきやっと先方が送ってきた重説と契約書も酷くて・・・。
力になってくれませんか?
買主は、物件はとても気に入ってくれているけれど、このまま話しを進めてもいいものか、私も不安なんです。』
いいじゃないですか、出来ないものは出来ないと業界他社に言ってしまっても。
守るべきはお客様です。プライドではありませんよね。
そんなに素直に協力を求められたら、買主側仲介会社を全力サポートしたくなっちゃいますね。
もう、『お任せください!』しか言葉は出てこないですよ。
さて、では素人の買主様を不安にさせてしまう契約書類とは如何ほどか?
返って興味が湧いてしまいました。
・・・
・・・・・・!?
空欄も多いし、書き方を知らないというのが手に取るようにわかるような記載内容。
素人でも重説の専門用語を調べれば、そのチェック欄にチェックが入らない(適用外な)ことぐらいわかってしまうことまで。
下手をしたら、銀行の住宅ローンの審議に影響が出てしまいそうなレベルでした。
社員は少ないけれど、先方が20年以上も続く不動産会社とは思えない内容。
買主側仲介会社の話しによれば、先方は代表取締役ではあるけれど二代目。
不動産を知らないところが節々に出るとのこと。
厄介だ。
何が?と思いますよね。
一言で言うならば、売主側仲介会社の機嫌や≪さじ加減≫ひとつで、買いたい物件を売ってもらえなくなります。
なぜなら、売主様へ報告される情報操作により『売主が売りたくないということになりました』となるんです。
売主様には『買主が購入申し込みを撤回した。細かい要求ばかりする面倒な買主なので話しを進めないほうが良い。』などなど。
だから買主側仲介会社というのは、ある程度まで手続きが進捗したり、契約締結の際に売主様と直接顔を合わせられるまでは≪弱い立場≫とも言えます。
例え、購入価格の交渉も無い・物件はとても気に入っている・売主様の希望する引渡し時期をそのまま受け入れようとしている買主様であってもです。
はい、私と直接会話したことがある方ならば想像つくでしょう。
こういう状況での私がどういう心情になっているか。
ええ、許しませんよ。こういう業者は決して。
そして、必ず買主様にも売主様にも気持ちよく契約して頂きつつも、先方の無駄な優位性は奪わせて頂きます。
昨日のうちには、修正箇所のチェックだけ終わらせておきました。
さて、日が明けて契約当日の午前、企画を提案。
契約時には、書類がまともな内容になって用意される場合もあります。
『完成版でもないのにウルサイ、わかってる!!』と言わせないように、指摘箇所は買主側仲介会社に報告しつつも、先方を刺激しないこと。
契約時に、本当にやり直さないと仕方のないレベルならば書類の作り直しという仕切り直しを私から提案すること。
情報操作により、売主様が後日『あなたには売らない』と言わないように、買主様・売主様が、物件内容そのものに大きな問題がない限り売買契約を締結する意思であることを書面で締結すること。
これは、エンドユーザーの気持ちの安定を図る狙いです。
いよいよ契約の時間となりました。
契約開始時間は、買主様と売主様とでは違います。
売主様は重説が終わる頃に会場に来て頂く調整をするのが一般的です。
売主様が会場に着くまで時間を繋ぐ必要もあり、それが課題でもありました。
用意された重説は、序盤の内容はやはり修正されておりました。
これはこれで円滑な取引になりそう。
ホッとしたのも10分程度。
一番大事なマンションの規約(ルール)について空欄や調査不足で結局不透明な物件になってしまっていました。
更には、勝手に買主様が20万円の費用負担をする特約が記載されているのです。
売主様が本来負担すべき手続き費用なのに。
これには驚きました。
販売図面にも、事前の契約書類にも記載の無かったものです。
指摘事項の話し合いのところ、売主様が到着。
重説が終わっていないとのことで、別室で待つように先方は促します。
やっぱりあなたはそういう性格の方ですか、よくわかりましたよ。
そういう方にはそれに見合う対処、させて頂きます。
何故、売主様の費用負担であることが一般的なのかの解説もしました。
折角売主様にはお越し頂いたわけですから、売主様と買主様が直接話し合い、折り合いを付けるほうが宜しいのではないか、と提案。
前職で私に『全てに了解を得られていなければ、売主と買主は合わせるな。仕事をしていないことになる』と教えてくる方がいました。
果たして、そうでしょうか?
仲介会社が間にいることで話しが進まないならば邪魔なだけと考えています。
その判断は、その場にいる者にしかわかりません。
幸い、照合するための添付資料は全て揃っており、マンション管理規約も管理会社からの報告書もあったので注意すべき要点は序盤の説明の間に読み込み済み。
物件自体に問題は、まず無い。
買主様に買いたい気持ちそのものに変わりはないとのことでしたので。
書類の不備と担当者の認識不足の状況説明、買主様は買いたい気持ちに変わりがないことを直接伝える必要があるのでは?と提案。
先方は、『では、一旦この場は終わらせて、明日などに私が売主様と打ち合わせて、特約をどうするのか報告連絡しますよ。』と不機嫌そうに。
おい、ちょっと待て、逃がしませんよ。
この場が解散されれば、売主様に買主様が買いたい気持ちに変わりはないという想いが届かなくなります。
これだけは避けなければなりません。
また、この状況は誰によるものかを関係者全員が正しく共有しなければ、買主側仲介会社の今後の立場が改善されません。
先方を説得の末、売主様も席について頂けることに。
書類の不備も、認識不足も先方の口から説明して頂きました。
想定している今後の流れの確認に移ります。
そこで今度は、売主様の認識している引渡しまでの流れが、契約書と全く違うものであることが発覚します。
今日のここまでの流れがなければ、契約締結後に一方的に売主様の要望を押し付けられていた可能性もあったということです。
結局、買主様・売主様双方の考えを聞き、その場で私が特約を考え提案。
双方の意思がそれにより、どう守られるのかを説明し、すんなりと了解を得られました。
そこからは、素直に『売りたい』、素直に『買いたい』の言葉が交わされ、意思表明の書面への署名・捺印となりました。
先方は自分の非を説明してからは、三言しか発言しませんでした。それも小声で。
二時間半にもおよぶ契約手続き(?)でしたが、明らかに買主様の顔が晴れやかになっていたことが私の疲れを取ってくれました。
その後のメールはCCに弊社のアドレスも加えられることとなりました。
メールのやり取りが、明らかに平等な立場で取り交わされるようになっていました。
今回のブログで伝えたいことは、『住み替えを任せるのは相手の立場・役職ではなく、誠実さなどの人間性で決めてほしい』ということです。